追記でメリンダとジルの話。
「わざと落として行ったのよ」
「・・・は?」
唖然としてしまった。
今すごく間抜けな顏ここいつに晒してるのだろうけど、
そんな事がどうでもいいぐらいに。まさか、と。
「どういう、意味だ?」
恐る恐る口にした疑問符は、冗談であってくれ、という意味も込めてなのだけど
「そのまんま」
と、あっさり真実を肯定されてしまう。
冗談であってほしかった。
この女が「純真で無垢な少女だった」という事を自ら否定するのだから。
初めて会った時の彼女は、
まだスクリーンにも雑誌の表紙にも居ない存在だった。
映画や雑誌に興味はなかったけど、彼女を一目見ればそれがわかった。
綺麗に着飾った女性が颯爽と歩いて行く傍ら、
身にまとっている地味なワンピースは所々破れて縫った跡が見えた。
家が貧しいのか、はたまた家出をしてきたのか、そう思わせる少女は
一人おぼつかない足取りで人ごみを歩いている。
そんな彼女と目が合った。伏し目がちな視線と、赤い目と。
そして、その瞬間彼女の姿が消えた。
いや、足をくじいて転んだのだ。
今しがた目が合ったばかりな少女をそのまま見捨てるわけにもいかず駆け寄ると、
その場に座り込み膝にできた傷を恨めしそうに睨んでいた。
「大丈夫ですか?」
そばに膝をつき顏を覗き込んだ。遠目に見たより綺麗な顏をしている。
無言でじっとみつめ返してくるのをそのままに、足へ視線を滑らせた。
傷は浅く、出血も少しですぐに治りそうだ。
それよりも気になったのが、ヒールの高い真っ赤なパンプスを履いている事だった。
身に着けているワンピースより明らかに上等なそれは、まだ新品のようで傷一つついていない。
きっと履きなれていないこの靴のせいで転んだのだろう。
「・・・ありがとう」
淡々とした少女の声にはっとして視線を戻すと
今度は目も合わさずに地面に手をついて立ち上がり、
引き留める間もなく人ごみの中に消えて行ってしまった。
なんだったんだろう、としばらく消えた背中を眺めていたが
ふと足元に何かあるのに気付いた。
拾い上げてよく見ると
宝石を模した飾りがいくつか繋がっている金色のチェーン。
ブレスレットだ。
「・・・あの子の」
落として行ってしまったのだろう。
後を追いかけようにも彼女の行先、まして名前も知らないのに難しい。
大切な物ならこんな簡単に落とすはずがない。
そう理由づけて、申し訳ないが少女の元に返すのは諦めた。
とりあえずポケットにそれをつっこみ、自分の目的地へと歩を進める。
大して気に留めていなかったその日の出来事は
いつしか頭の奥底に眠ってしまっていたのだけれど、
何年かした後のある日、一気にその記憶が蘇った。
その少女の面影を見たのが、舞台のポスターの中だなんて。
「どこからがわざとだったんだ?」
「目が合った後から全部」
「・・・嘘だろ?」
あの一瞬からすべてが彼女の思惑通りだったとでも?
「あの日はね、貯めたお金で初めて自分で靴を買ったの。
あたしは女優になるのが夢だったから、ヒールの高い靴を履いて歩く練習をしようと思ってた。
そしたら、偶然見かけたお前と目が合った。その時思ったの」
あの時と同じ赤い目が、まっすぐこっちを見つめる。
いつもと違う不敵な笑みを浮かべ、それから僕の丁度心臓のあたりを人差し指で突いた。
「あの男は絶対、あたしのものになるべき」
「あ、あんな運任せな方法で?」
「でもお前は、あたしに会いたくなったでしょ?」
「それは、」
「これはきっと運命とか、そんな類の素敵なものなんじゃ、って思った?」
「・・・」
返す言葉がない。
そう思っていた。そう思ってしまっていたのだ。
あの日の少女が自分の事を覚えていたら
そんな淡い期待を持って、彼女の出る舞台を見に行った。
・・・返す言葉がない。
「あたしね、シンデレラだってきっと、わざとガラスの靴を置いていったのだと思うの」
いつも通りの柔らかい笑みを浮かべ、彼女は続けた。
「王子様が自分を探しに来るように 王子様と自分が結ばれるように」
そんな馬鹿な話が、と言いかけて止めた。
言った所で勝てる気がしない。
「ねぇ、ジル。あの時お前はあたしを追いかけては来なかったけど」
そんな女に惚れたのは、自分なのだから。
「今こうして 傍にいるでしょ?」
メリンダが舞台に出るようになるのは2年後ぐらい。
今この話をしてるのがそれからまた1年後ぐらい。
もうちょっと短かったんだけど
とある方のシンデレラの解釈を見てどうしても台詞に入れたくなってしまった・・!
実はメリンダの方が何枚も上手で腹黒^ー^
そんで普段はガンガン喧嘩腰だけど
いざという時何も言えなくなるジルお前は・・・お前・・
どうもNLになると女×男になるぞおかしいな・・・
